マカオの市場街にて
マカオの市場街にて

7月のある日、(冷凍でなく)生のレイシ(=茘枝)を見つけました。
ライチだっけ?レイシだっけ??・・と、名前もおぼつかないこの中国果実、原産地は中国南部〜インドシナ半島で旬は6〜7月。
唐代の名将玄宗帝の寵愛を受けた楊貴妃の好物であったことが何よりこの果物を有名にしているようですが、妃の美貌が、このレイシだったかどうかは・・・??。
レイシについて知っているのは、この程度でした。
この本を読むまでは。

『死諫之医(しかんのい)』

著者は、医師で漢方薬剤師でもある劉大器氏。
唐代の玄宗帝を取り巻く人々と玄宗帝の「欲望の病」(=糖尿病)をテーマにした歴史小説で、実在の名医、孫思ばく(そんしばく:バクの字がJIS企画にないのでひらがなでごめんなさい)やその弟子孟言先(もうせん:言片に先で一字)が登場します。糖尿病になった玄宗帝に、様々な薬膳と漢方薬の処方を施すプロセスが物語の3分の1以上を占める臨床の書のような側面もあるのですが、史実との巧みな交叉が小説であることを忘れる臨場感。
さて、この小説では、玄宗帝が糖尿病になるきっかっけがなんと、レイシを有名にした楊貴妃なのでした。

楊貴妃は、蜀(現在の四川省あたり)出身の、ちょっとぽっちゃり系の色白美人で、なかなかの大食漢でもあったようなのです。
お国を超えて嫁した姫君が故郷故国の味を所望することでその国の食文化に少なからず影響を与えるというの
はよくある話ですが、楊貴妃もまた、自分の郷里の料理-----豊富な食材*と調理技術の匠により「見た目より味で勝負!」といった食文化をもつ四川料理-----を求めたため、それまでの上品で華やかな宮中御膳坊が一新されてしまったといいます。


若い妃を娶った玄宗帝は、初老ともいえる年齢にして色と美食に目覚めたことで、これまでの生活が一転し、健康を害していきます。また、決して政治的野心の持ち主でもグルメでもなかった妃ですが、玄宗帝にねだる「ささやかな我が儘」が、政権を揺るがす大事へと繋がっていくのでした。


レイシは、南国の果物。しかも日持ちがしません。当時の長安でレイシを手に入れるのは殆ど不可能なことだったのですが「レイシが食べたい・・・!」
この愛妃の懐郷こもるシンプルな願いに応えるべく、玄宗帝は、戦乱などの緊急時の為に確保しておかなくてはいけないはずの軍道を使って運ばせることにしたのでした。

乾燥した長安の地で、故郷で慣れ親しんだみずみずしいフルーツ、レイシを切望した楊貴妃の気持ちも分からないではないですが、世は乱世。ねだった相手は、不可能を可能にしてしまう専制の世の権力者。軍道が機能しない機をみはからって反乱軍が発起し、政権がひっくり返る大事へと至り・・・。

楊貴妃は、軍の兵士達らからの怒りを買い、玄宗帝の側近により賜死させられるのです。
レイシは、楊貴妃を死に至らしめた果物でもあったのでした。
あ〜〜〜〜。

古の悲劇に思いを馳せながら、レイシをひとつ・・・。
ああ、やっぱり美味しい・・・。

ちなみに、レイシは、温性で、補脾養血、生津止渇。つまり、体を温め、お腹にも優しく、氣を満たし、潤いを与える効能がある食べもの。
美容に良い食べ物・・・・だった。
乾いた地、長安で玄宗帝の目に留まるだけのみずみずしさと豊満さを備えた楊貴妃の美貌の素だったかも知れない??。